結膜弛緩症(けつまくしかんしょう)の手術

結膜弛緩症に対する縫着法(Anchoring)という方法を世界で最初に発表した内容です。学会発表の内容を転載しておりますので、ややプロ向けですが、患者さんにもご理解いただけると思います。

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●結膜弛緩症とは

眼瞼縁上、通常下眼瞼縁上に弛緩した球結膜がしわを作っている状態で、患者は通常は無症状であるが、時に異物感、流涙等を訴える。

●縫着法(Anchoring)と呼ばれる手術方法を論文発表した内容です。

患者さん向けにちょっとだけ自慢を入れさせていただきますと、眼科の一流の英文雑誌から「縫着法による結膜弛緩症の治療を世界で最初に発表した論文」と認定を受けて掲載され、ワシントンのデータベースにも入っています(^^ゞ。

American Journal of Ophthalmology 2000 March;129(3):385-387

A new surgical technique for management of conjunctivochalasis

Otaka I, Kyu N

クリックすると、データベースにアクセスできます。私と、私の静岡の師匠、 きゅう眼科医院 の邱信男先生で出した論文です。

この方法は、広島県の のま眼科医院さんのHP でも紹介していただいております。

●(主にドクター向け)手術のビデオをご覧になりたい方はここをクリックしてください。スライドをご覧になりたい方はここをクリックしてください。保存して配布していただいてもかまいません。

●手術には保険適応が認められています。

静岡県では、眼科医会前会長の中村好邦先生のご配慮で、「K-223結膜嚢形成術 1 部分形成 2460点」でとらせていただいてました。まさにそのとおりだと思います。余談ではありますが、中村先生は手術への造詣が深く、非常にストレートでダイレクトな保険請求の指導をしてくださったので、今でも感謝しています。

●我々の注目した解剖学的特長

高齢者の下眼瞼に好発する

Fornix(結膜嚢、目の下部のスペースのことで、涙の貯留などの役目を果たしている)が浅い

結膜の眼球に対する接着が弱い

●病因に対する我々の仮定

長年の眼球運動によるストレスで球結膜の眼球に対する接着が悪くなり、ゆるくなった結膜が下眼瞼に持ち上げられているのではないか。

老齢化による結膜下組織の減少も、結膜の接着力低下に関与しているのではないか。

下を向いたときには上眼瞼は下がるが、上を向いたときには下眼瞼は上がらないので、下方の球結膜により強いストレスがかかり、より結膜の剥離が強くなるのではないか。

上眼瞼の位置は通常角膜の中心近くにあるので、結膜をその位置まで引っ張ってこれないであろうことも、上方にはあまり見られないことの理由の一つではないか。

●前記仮定に基づいて我々の施行した手術方法

縫合部で炎症を起こして永続的な接着を得るために、バイクリル糸を使うと論文には発表しましたが、バイクリル糸は術後患者さんの違和感の訴えが強い気がするので(結膜全体に炎症が起こることもある)、シルク糸を使用したほうがよさそうです。ナイロン系の糸では、全く癒着が得られませんので、糸が脱落したあと元に戻ります。

太さは8-0がいいと思います。しっかり縫合すれば、8-0で十分癒着が得られます。

6時側の結膜は慣れなくて縫いにくい場所なので最初はプルプルふるえますが、そのうち慣れます。結膜縫合は2-1では足りません。2-1-1でしっかりしないと、早期に糸が脱落して、強固な接着が得られません。

強膜(厳密にはテノンまたは筋膜かもしれない)のごく表層をすくうだけで十分癒着が得られますので、穿孔を避けてください。もし穿孔した場合も、まず網膜剥離は起こらないと思います。

以下の写真の矢印に示したのが縫合した糸です。

●結果

fornixはより深くなり

下眼瞼縁上の結膜の皺襞は姿を消した。



●医療広告ガイドラインに基づくリスクの説明

失明などの大きなリスクは今迄に関してはありません。しかし、術後、炎症での赤目、異物感が2週間から1か月程度続くことがあります。また、1年から数年で戻る場合があります。

●考察

日本では京都府立医科大学の横井先生が熱心にすばらしい研究をされています。横井先生の手術の基本は切除、です。自分らの手術の基本は縫着による再建、です。

個人的には、こう考えます。

結膜があまっているので切り取る。これは当然の発想で、間違いなく正解と思います。

しかし、どんな手術にも言える事ですが、切除せずに再建で治るならそうしたいものであります。ゆえに、私達は縫着法による再建にこだわっています。また、切除をする場合と比較し、結膜嚢の形成が良く、涙の貯留という点からも有利と考えます。

この逆転の発想が認められたからこそ、論文がAmerican Journal of Ophthalmologyに掲載されたと考えております。

しかし、横井先生もご指摘のとおり、縫着法(Anchoring)は、完全に結膜が伸びきらない場合があることも事実です。それはすなわち、結膜が強膜から離れていると同時に、それ自体が伸びているからです。ですから、個人的には、縫着法をやった上で、縫着法でのばしきれないところに必要ならば切除を加える、というのが完璧な再建と言えるのではないかな、と考えます。

しかし私は、縫着するだけで切りません。それでも全く問題なく患者さんに喜んでいただいてます。結膜が進展しているために、縫着しても、その下に結膜がぶよぶよと余りますが、患者さんからの術後の違和感の訴えはぜんぜん無いです。いつか使うかもしれない大事な結膜ですから、切り取らなくても良いものは切り取らない。これが大高流というわけです。

参考文献

1.Hughes WL: Conjunctivochalasis. Am J Ophthalmol 25:48-51,1942

2.Meller D, Tseng SCG: Conjunctivochalasis: literature review and possible pathophysiology. Surv Ophthalmol 43: 225-232, 1998

3.Liu D: Conjunctivochalasis: a cause of tearing and its management. Ophthalmic Plast Reconstr Surg 2:25-28, 1986

4. Yamamoto M, Hirano N, Haruta Y, Ohashi Y, Araki K, Tano Y: Bulbar conjunctival laxness nd idiopathic subconjunctival hemorrhage. 新しい眼科 11:1103-1106, 994

mail: otaka@isao.com

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